風が吹かなければ桶屋が儲からない

folder_open天白牧夫, 妙蔵寺たより

2020年7月21日「妙蔵寺たより 117号」掲載
―妙蔵寺の自然―

NPO法人 三浦半島生物多様性保全理事長
天白牧夫

『風が吹けば桶屋が儲かる』とは「風が吹くと土ぼこりがたって目に入り目の不自由な人が増え、目の不自由な人は三味線で生計を立てようとするから、三味線の胴を張る猫の皮の需要が増え、猫が減るとねずみが増え、ねずみが桶をかじるから桶屋がもうかって喜ぶ」という意味で、ある事象の発生により、一見すると全く関係がないと思われる場所・物事に影響が及ぶことを喩えた江戸時代のことわざです。今の時代、科学の進歩によりいろいろなことが明らかになっているので、買い物をするにしても病気をするにしても、原因と結果が非常に短い距離で繋がっているように感じていると思います。逆に、一見すると全く関係の無いようなものは、よくわからないので無かったことにされているのではないでしょうか。自然環境の中では明らかになっていることよりもよくわかっていないつながりのほうが遙かに多く、天文学の分野でも昆虫の分野でも、どこから紐解いていってもつながりはほぼ無限大になることでしょう。曼荼羅の考え方にも通ずるので、多神教の民族としては本来イメージしやすいはずです。

しかしこれが、最近ではぶつ切りの原因と結果で決着させようという風潮になってきています。テレビのワイドショーの見出しの立て方が典型的です。かつて久里浜火力発電所による海の埋め立て工事に際し、漁ができなくなる近隣の漁業者には幾ばくかの補償がなされましたが、この建設によって数十年後に野比海岸の砂が減り、毎年何億もの予算をかけて県道を修理し続けることになるとは、当時は夢にも思っていなかったはずです。妙藏寺も近くで山が削られ、トンネルが掘られましたが、これにより井戸水が出なくなったり、地滑りを起こしたりしています。しかも実際は、「風が吹けば桶屋が儲かる」ように1対1対1対1対1のようなつながりではなく、それぞれが枝分かれしているので、それを追い続けるのは大変困難ですし、多くは何かが起きたあとにわかるものです。私の指導者が、悟りとは諦めであるとの言葉をくださいましたが、それに従い、理の全てを手中にしようとするのは個人的に諦めています。エアーズロックより遙かに小さい870mの岩の塊を調べに289億円もかけて宇宙の彼方へ行くように、神様と同じく全知全能でありたいと思えばキリがありませんし、人間のエゴであるとも思います。ざっくりと曼荼羅のイメージを持ち、天が定めたもの――数千年以上の自然史の裏打ちのあるものをひとまず良しとしてそこからの逸脱具合で物事を評価するのが現実的ではないかと思います。

江戸時代以前はトキもタンチョウも横須賀のありふれた水田で餌をとっていたはずですし、このあたりの磯からはクロマグロが釣れ、沖にはニホンアシカが泳いでいたようです。今は地球史上6回目の大量絶滅期だとも言われていますが、それはひとえに、現在文明が生態系の曼荼羅を少しずつ破いているためです。横須賀ではもういなくなってしまったニホンイシガメがなぜ減ったのか。テレビ的には外来生物アカミミガメに圧迫されたのだというような表現をよくされていますが、私が見る限りではアカミミガメとニホンイシガメは競合関係にはありません。アカミミガメに比べ陸上を長距離移動するニホンイシガメは、近代的な排水路の構造によって命を奪われていることが多いのです。落っこちると上がれず、毎年必ずやってくる台風で海まで流されて死んでしまいます。生物多様性が何なのか、外来生物が何なのか、浅い原因と結果の関係を追い求めているとその本質を見落としがちになります。最近の週刊誌にあった談話で、「昨今の外来種バッシングには大いに疑問を感じています」と述べる大学の生物学の名誉教授ですら、まず外来生物が何かすら正しく理解されていませんでした。

最近でも市内の高校でテニスコートの整備をする計画がありましたが、そこで細々と命をつないでいるトウキョウサンショウウオへの配慮が必要なことを学校側は当初考えていませんでした。サッカーチームの誘致に盲目的になり、グラウンド建設のために埋め立てられることになった三浦半島唯一の塩性湿地の存在を顧みる人はいませんでした。人は間違いを犯すものですが、その間違いが自然環境に対してであった場合、それを償うことはほぼ不可能になります。人が自然環境を改変しようとするときは、極めて自戒的に判断をしてもらいたいと願っています。そのためにまず、150年以上前の地域の様子を学んでみてはいかがでしょうか。縄文人や弥生人は、自然環境の歯車の一部として生きていながら、かなり文化レベルの高い豊かな暮らしをしていたことが最近の研究でわかってきています。

天白 牧夫(てんぱくまきお)

天白牧夫

博士(生物資源科学)
NPO法人 三浦半島生物多様性保全 代表

1986年、横須賀市阿部倉で生まれ育つ。
中学生の頃、環境保全活動家の柴田敏隆氏に出会い、師事。三浦半島で自然観察会や里山保全活動を展開しつつ、妙蔵寺の活動理念に深く賛同し周辺の自然環境の保全について提案、実践している。研究者としては大学3年時から爬虫類・両棲類の景観生態学的研究を進め、現在に至る。NPO法人では、三浦半島で最も危機的な自然は谷戸田を中心とする農村環境であるととらえ、企業や行政と連携し、市内各所で復田と環境学習に取り組んでいる。

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