手当てなのか、干渉なのか(前編)

folder_open天白牧夫, 妙蔵寺たより

2018年11月「妙蔵寺たより 112号」掲載
―妙蔵寺の自然―

NPO法人 三浦半島生物多様性保全理事長
天白牧夫

地域のみどりの話題について、最近テレビも含め色々と新しい情報を目にしたり考えたりする機会が増えました。それ自体は、都市や人が自然や生き物により関心を向けるようになったこととして、大変喜ばしいことです。特別な一部の専門家だけでなく、普通の小学生やサラリーマンでも、自然を思いやる気持ちを持って何か自分にできることがないかと思い、実践していただくことこそが、地域の自然環境を維持していく最も順当な道筋だと考えています。その時のより所となる、情報源にはどんなものがあるでしょうか。例えば最近では地域に溢れる外来種を駆除するテレビ番組、地方で里山再生を実践している人のホームページなどが露出度も高く、興味もそそられるかと思います。しかしその情報源が本当に正しいかどうかを判断するのは本当に難しく、たいていは公表されている情報を信用してしまうものです。

自然保護を世の中に勧めていく立場としては、どんな方法で自然環境に手をさしのべていくべきか、常に弱気になって自問しています。ヒトという一種の生物に過ぎない存在が、自然環境をコントロールしようとすること自体が不自然だからです。適切に手当てをして自然環境が良くなれば、活動家としてはこんなに嬉しいことはありません。しかしともすると余計なお世話をしているだけのありがた迷惑になっていないか、それだけならまだしも自然破壊になっていないかを確かめるための検証が同時に必要なのです。既にわかっているだけの情報でも膨大ですが、自然は大変多様なので、新しい知見を見出すのは非常に労力がいり、クリエイティブな作業になります。興味を多くに向けることは、大変ですが面白くもあります。

最近、山のコナラの大木が突然枯れてしまう楢枯れ病が増えてきています。

カシノナガキクイムシという昆虫がナラ菌を媒介して起こる病気のようですが、その蔓延の引き金となるのは、人が薪炭林を管理せず何十年も放置したためだと言われています。
三浦半島のコナラの林は、薪炭林用に人が15~20年周期で伐採(収穫)しながら管理してきた山です。炭や薪を使用していた頃は、20歳以上のコナラの木は無かったことになります。

新緑の中、弁慶の立ち往生のごとく枯れたコナラの大木(一番奥の木)
新緑の中、弁慶の立ち往生のごとく枯れたコナラの大木(一番奥の木)

現代の三浦半島に生えるコナラはその頃の生き残りで、軒並み50歳を越え、中には100歳近い大木もあります。キクイムシは幼虫が木の中にトンネルを掘りながら柔らかい木材を食べて育ちますから、瑞々しい木にはつきません。若い木は再生能力が強く、キクイムシのトンネルも埋めて菌の侵入もはねのけてしまいます。カブトムシは逆に樹液の枯れた老木には見向きもせず、代謝が高くジャブジャブ樹液を出せる若い木を好みます。これまで若い木しか無かった三浦半島で、老木を殺して代替わりさせる楢枯れ病は滅多に発生しなかった代わりに、人が薪を作ることで林を若返らせていたのです。

それよりもっと前の時代、縄文以前の時代にはおそらくこのような病気はたくさんあり、老いた木は順番に枯らされて林が若返っていたはずですが、今の三浦半島の林がその頃と違うのは、みんな老木であるということです。人が一様に管理していた山を、一様に放置してしまったために、一様に年をとっているのです。だから一様に楢枯れ病が蔓延し、山のあちこちで一様に枯れ木が目立っています。
そこで神奈川県では、楢枯れ病を防ぐために農薬の補助金を出すという新聞報道がありました。確かに枯れ木は見栄えが良くないかも知れませんし、これまで立っていた大木が突然倒れてきたら危ないと思います。しかし、楢枯れ病は人が木を伐採して更新していたものを、昆虫と菌が肩代わりするようになった自然の病気です。薬剤等の乱用は慎むべきですし、楢枯れ病だけを防いだところで老いた木は別の病気にかかりやがて枯れる運命にあります。倒木の林が台風で大きな地滑りを起こすなど、延命治療をした方がかえって災害を招く場合もあります。自然のままに枯らすか、人が伐採して新しい芽を育てるかして、根本的に林を若返らせることをしない限りは、問題の解決には至らないのです。

天白 牧夫(てんぱくまきお)

天白牧夫

博士(生物資源科学)
NPO法人 三浦半島生物多様性保全 代表

1986年、横須賀市阿部倉で生まれ育つ。
中学生の頃、環境保全活動家の柴田敏隆氏に出会い、師事。三浦半島で自然観察会や里山保全活動を展開しつつ、妙蔵寺の活動理念に深く賛同し周辺の自然環境の保全について提案、実践している。研究者としては大学3年時から爬虫類・両棲類の景観生態学的研究を進め、現在に至る。NPO法人では、三浦半島で最も危機的な自然は谷戸田を中心とする農村環境であるととらえ、企業や行政と連携し、市内各所で復田と環境学習に取り組んでいる。

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